流動する留学環境とリスク評価について | JCSOS 海外留学生安全対策協議会|教職員向け

ゲスト様

危機管理コラム

流動する留学環境とリスク評価について

1.これまでのご対応
2019年末から発生した新型コロナ感染拡大並びにその後のWHOによるパンデミック宣言以降、長期の留学プログラムについて、手続きに必要な期間を考えると、ある程度の段階で催行の可否を決定する必要があり、これまでの学校の、学生・生徒と保護者(保証人)に対し学校の判断基準を予め示して、それに基づいて留学プログラムの実施可否判断を行い、ご対応をして来られたことは極めて適切であると考えます。

2.その後の状況変化
当初はウイルスのリスク、毒性が十分に解明されていない段階から対応されてきましたが、その後、専門家、研究機関等による調査・研究が進み、状況が判明するにつれて新型コロナ・パンデミックによる緊急事態は流動的に推移してきました。ワクチンが開発され、その有効性が立証されるにつれ、ワクチン接種完了の人(学生等)の入国を認める国・地域や、海外留学生の受入れを認める大学が現れつつあります。
また先日のJCSOS危機管理情報でもお伝えいたしましたように、日本から海外留学を希望する学生のワクチン接種に関し、68日付で文部科学大臣が言及していました(https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00168.html)。
この会見の中で文科相は「社会の発展をけん引しグローバルに活躍する人材の育成のためには、日本人学生の海外留学を後押しすることは大変重要です。文科省としては、海外留学に意欲のある学生を支援できるように努めてまいりたいと思います。」「それぞれ可能なところを見つけてですね、そのための相談を文科省にしてくださいということを申し上げているので、そこは、上手に隙間を見つけて、打てる人から打ってあげたいなと思っています。」と述べています。会見全体をみますと、海外留学を目指す学生に対しては、海外留学が早期に実施できるように推進したいと言っているようです。大学拠点接種もこの21日より始まりました。また、新型コロナ・ワクチン大規模接種センターが、18歳以上64歳まで一般の人も受付を開始しています(ただし申込には接種券が必要ですから、一早い国内接種のためには大学拠点接種の方が現実的かもしれません)。よって、留学を希望する学生が、現地の国や地域、あるいは受入大学の許可基準(ワクチン接種と陰性証明等)を早期に充足できる可能性が出てきました。海外では、欧米を中心にワクチン接種が進んでいる国が増えてきて、大学によっては学生・教職員らにワクチン接種を義務化するところも出てきています。

3.新型コロナ・ウイルス(COVID19)のリスク評価
COVID19は、新型コロナウイルス感染症対策本部により、その感染力と毒性から第2類感染症以上とされています。これらについて、ワクチンが開発され、製薬会社による第一相試験から第三相試験において、その接種を受けた人から見るとリスクが大幅に低減することが確認され、薬事承認されるに至っています。また仮に渡航先国・地域等のワクチン接種率が高ければ、環境改善により感染するリスクも低減することにもなります。 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000675228.pdf P9
① これについて、学校に置き換えて考えると、学生が渡航前にワクチン接種を完了した場合に、感染力と毒性について、リスクを減少させることが可能となります。厚労省の説明では、いずれのワクチンも、薬事承認前に、海外と国内で発症予防効果を確認するための上記試験が実施されており、ファイザー社のワクチンでは約95%、武田/モデルナ社のワクチンでは約94%の発症予防効果が確認されているとしています。https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html
また、重症化についても同程度の有効性があるとすると、それぞれのリスクは大幅に縮小されると考えられます。それらを乗じて考えると感染力と毒性がインフルエンザ程度となり、第5類感染症となることが想定されます。つまりリスクが一定の条件下で縮小することになります。
② 留学生が渡航する国・地域でのワクチン接種が進むと、その国・地域の感染者の実効再生産数は低下し、1.0以下となる可能性、あるいは集団免疫獲得に近づくことが考えられます。

4.留学プログラム実施基準と、例外条項の必要性
外務省の感染症危険情報レベルはどうしてもある程度広範囲に渡る判断となります。また、判断の変更等の時期が、現地の状況変化よりも遅くなるなど実態とズレが生ずることもあり得ます。新型コロナのような感染症の感染状況は狭い範囲で刻一刻と変化しています。よって、目的国や滞在予定地域の中での感染拡大リスクは縮小し、必ずしも外務省の感染症危険情報レベルの表記と合致せずに事態が改善し、また、ワクチンを接種した学生であれば渡航できると考えられる状況が出てくる可能性があります。事態は流動的ですので、学校としてこの点をどう判断し、お取り扱いになるかを、検討されることをお勧めします。つまり、これまでの留学実施判断基準を踏襲していくのか、状況の変化を考慮して判断基準の一部修正を考えるのか(例外を作る、ということになろうかと思いますが)、のどちらかになると考えます。基準の例外としては例えば、現地のワクチン接種率、新規感染状況等を評価し、また渡航を希望する留学生の健康状態と、現地及び留学先大学で求められる基準(ワクチン接種完了等)をクリアしていることを確認した場合に、COVID19のリスクがどの程度縮小されるかを検討して、渡航を認めるということを選択肢に入れることは、海外留学を進めたいとお考えの場合には、有効になりうるのではないかと思います。
事態は流動的と申し上げましたが、いつ状況が変化し、留学が急に始まることもあり得る中で、乗り遅れることは、行きたい学生の期待に応えることができないとして、ブランドに影響することが懸念されます。これを避け、且つ、大学に求められる役割をはたすことを考えなければなりません。
もし、現在のパンデミックの様なイレギュラーな状況の中でも海外留学をできる限り進めたいという方針を大学としてとられる場合には、留学実施基準の例外を認めるための要件、条項を詳細に決めた上で、それに則り進める体制を整える、ということも必要かと思います。事前調査は十分か、学生に対する警告はなされたか(コロナに感染し入院した場合に、大学が通常予定している救援活動ができない場合がある等)、等を充足し、その上で学生が自ら参加を決めた確認等を行い、進めていくことになります。他の国や地域への留学について、可能性があるところから海外留学を早期に再開するか、焦らずに、外務省の危険度レベルが下がり通常の安全が確保される状況になるまでは海外留学の再開を急がないとするか、どちらの方針で進められるかによるかと思います。
これから本格的に大学拠点接種も進んでいくと思われますので、目的地の感染状況や留学先大学の受入れ条件等をよく確認した上で、リスクが低いと判断できた場合には、留学実施も可能にする体制にするために、渡航判断基準の例外規定を作成しておかれたらよいのではないでしょうか。ご検討ください
                                                                                      (文責)酒井悦嗣 JCSOSアドバイザー