新型コロナ対策の現状と留学再開検討に向けて | JCSOS 海外留学生安全対策協議会|教職員向け

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危機管理コラム

新型コロナ対策の現状と留学再開検討に向けて

交換留学等送り出し留学の再開を目指す大学が出てきておりますが、昨年の状況と現在では何が違っているのか、それが再開にどのような影響を与えるのか、仮に再開する場合に注意すべき点は何か、について以下に述べます。

1.2020年と2021年のリスクのインパクトの違い
COVID19は世界共通のリスクですので全体像から見てみますと波はあっても感染増加傾向にあり、デルタ株の発生以降、下表赤いグラフにありますように急激に感染者が増えたことが見られます。2021年の特徴は、感染者数の増加と、下の白い死者数のグラフが必ずしも比例しておらず、死者数のグラフの増加は少ないことがわかります。また、最下段の緑の入院患者数のグラフも感染者数の増加に比し、控えめです。
(出典:ジョンズ・ホプキンス大学 最新情報はこちら

これは、昨年のワクチンも無く、治療薬も承認されていなかったときのリスクと現在のリスクは異なっていることが見られます。

リスクは感染力と毒性ですが、デルタ株の感染力はより強いといわれています。また、毒性が弱まったとする情報はありませんが、他方、ワクチンができたことと、承認された治療薬が出てきたこと等から、徐々に有効な対処ができるようになってきたといえるでしょう。
1)世界の国別人口100万人当たりの感染者数
(9月3日現在7日間平均・出典:札幌医科大学 最新情報はこちら )

94日現在の過去7日間の感染者数平均数値       


 

94日現在の過去7日間の死者数平均数値

 

 

2.個別渡航先リスク例示について
アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国の状況について例として以下に述べます。

使用する新規感染者数のグラフは、NHKがジョンズ・ホプキンス大学の情報を基に作成したものです。(最新情報はこちら

また、94日現在の過去7日間の人口100万人当たりの死者数については札幌医科大学の情報です。(最新情報はこちら

① アメリカ
831日までの新規感染者数の推移は次の表の通りです。

全米では下記の829日から94日までの平均値は163,716人となりますので、これを330.06で除しますと感染者数は496.0人となります。米国のワクチン接種完了率は52.19%(NHK特設サイト、95日更新)で、特に接種率は南部が低い模様です。

現地で感染が確認されますとホストファミリー宅かホテルで隔離されることになります。入院が必要となった場合には、保険会社と提携している医療機関以外に入院させられることがあります。その場合、治療費のキャッシュレスができない場合がありますが、クレジットカード等で立替え頂き、直ぐに保険にご請求頂くことになります。

入国に関し、現在、日本からの渡航を含めて基本的にアメリカは外国人の入国が可能です。ただし現在のところ、日本からの渡航であっても、米国入国前14日間以内に中国、インド、イラン、英国、アイルランド、EUのシェンゲン協定加盟26カ国に滞在歴がある場合には入国ができないとされています。日本からの渡航の際には、原則として出発72時間以内に取得した陰性証明書の提示が必要となっています。
                   
② カナダ
831日までの新規感染者数の推移は次の表の通りです。

カナダのワクチン接種完了率は67.25%(NHK特設サイト、95日更新)と高く、留学環境としては、感染を比較的制御しているといえます。感染し悪化する場合には地域の保健機関がサポートし、現地で感染のみの場合には、ホストファミリーのケアとサポートを受けながらホスト宅内で隔離されます。感染者と接触した可能性のある全員がPCR検査を受けることを求められます。治療費については米国と同じです。

入国に関しカナダは、パンデミック後は原則として外国人の入国を禁止していましたが、97日よりワクチン接種完了者に限り、不要不急の渡航も含めた外国人の受け入れ再開を始めました(留学を許可された外国人は、条件はありますが、それ以前より入国制限の対象外として認められていました)。

カナダ入国に際しては、航空機搭乗時までに「Arrive CAN」というアプリの登録および情報提出が必要となっています。このアプリにワクチン接種証明書をアップロードすることで、ワクチン接種証明の提示と認められます。証明書は英語またはフランス語で書かれていることが必要です。

カナダでは、連邦政府によるアプリ「Arrive CAN」とは別に、ケベック州、フォード州、オンタリオ州、ブリティッシュ・コロンビア州、マニトバ州など複数の州でワクチンパスポートの導入を始めています。これは、現在は州ごとに異なるようですが、最終的には「Arrive CAN」も含め統合される可能性もあるようです。現在のところは未定です。

③ オーストラリア
オーストラリアは、感染者の多い上位30に入っていないためNHKのグラフは作成されていませんが、感染拡大したとはいえ、水際防疫、ロックダウン等感染拡大防止策が有効に機能しています。NSW州政府は826日、ワクチン接種回数が600万回に到達したことから、913日から2回目の接種完了者を対象に行動制限措置の一部緩和を発表しました。825日の発表では、同州における16歳以上で初回の接種が完了した人の割合は61.47%、2回目の接種が完了した人の割合は32.95%、接種回数の合計は616万回になるとしています。(オーストラリア保険省)。感染時の対応はカナダとほぼ同じになります。

オーストラリアでは現在、基本的に外国人の入国を禁止しています。特別な理由がない限りは入国できない状況です。この7月以降は感染者数が急増し、連日のように過去最多を更新するなどし、ロックダウンなども行われました。

オーストラリアは昨年までは感染者が少なく、比較的コロナを抑え込みに成功している国と見られていたこともあり、ワクチン接種の開始、普及が欧米諸国よりも遅くなっています。オーストラリア政府が86日に決定したコロナ対策の出口戦略によりますと、現在は学生ビザ保有者の入国は限定的となっており、16歳以上のワクチン接種率が70%を超えた段階で、学生ビザ保有者の入国を上限付きで許可する予定、80%を超えた場合にはさらに上限を増加する予定とされています。

④ 韓国
韓国は、感染拡大防止策においてSARS, MARSの経験から構築した組織、体制、法令等を生かしており、その経験を生かした判断で感染拡大抑制策を講じて対策に当たりました。その中で成功した方法、一時的に功を奏した方法、有効でなかった方法等ありましたが、現状で感染者数、死者ともに日本より良い結果を出しています。

感染時の対応について、受入れ先大学と役割と対応について事前にご確認頂くことをお勧めします。入院時の治療費について、公立病院では立替が必要となりますが、満床等で私立病院に入院した場合にはキャッシュレスサービスが可能な場合があります。

入国に関して、韓国は外国人の入国は可能ですが、少なくともこの91日から30日までは、日本は変異株流行国とされ、ワクチン接種完了者でワクチン接種完了証明書を持っていても、日本からの渡航については隔離免除対象外となり、隔離免除は認められないこととなっています。韓国に限らず、入国時の条件や義務は頻繁な変更がありえますので、余裕を持ったスケジュール立てが必要です。

3.日本の現状
2021830日現在、感染確認者数は149640人、死亡16,070人ですが、これまでの変化をみると、感染者は増え、重症者も増えていても死者はそれほど増えてはいません。

2021年9月12日現在、感染確認者数は164万976人、死亡1万6,805人ですが、これまでの変化をみると、感染者は増え、重症者も増えていても死者はそれほど増えてはいません。

9月12日付けのデータが出ています。

新型コロナウイルス 日本国内の感染者数・死者数・重症者数データ|NHK特設サイト

次の表は同じくNHK 新型コロナ・特設サイトにて掲載されているものですが、他の主要国と同様、感染者数の推移に比し、死者数の増加率は低く収まっていることがわかります。

しかし、外国から見た日本は、感染症危険レベル3の国です。つまり、現在の日本と比較し、単位人口当たりの感染者数、重症者数、死者数の低い国・地域は、リスクの低い目的地となります。これに、万一の際の医療制度、体制等も同時に確認してリスクを評価することになります。

4.現状をどう見るか
新型コロナを取り巻く状況は流動的ではありますので、留学実施をご検討の場合には、実施を判断した後に突発的に内容変更から中止をせざるを得ないケースまで、想定できる展開をあらかじめ学生・保護者に説明しておかれることが必要です。また、現地で感染した場合の治療の流れ、大学の救援活動の概要、万が一重症化した場合に保護者や大学教職員が現地に救援に行くにしても、学生と会えない場合が出てくること、帰国入国時にも隔離が求められること等の情報を学生と保護者に説明し、改めて留学の意思を確認し、大学として、できることできないことについて予め同意を得ておくことがポイントになります。

今回は留学予定の学生が全員ワクチン接種済みで渡航されるとの前提ですと、2020年のCOVID19が感染法に基づく分類で2類相当とされているものと比較してリスクが縮小された環境の中で実施されることになると言えます。2類には結核やSARS等があります。リスクが一定程度下がれば、感染症法に基づく分類が下がったと同じ効果が期待されます。5類にはインフルエンザ等があります。

【ワクチンパスポートについて】
政府のワクチンパスポートと呼ばれる海外渡航用の新型コロナウイルスワクチン接種証明書は、726日から各市町村(特別区を含む)にて交付申請の受け付けを開始しています。紙ベースではありますが、現地では必ず役に立つと思います。また、これを基にアプリを活用したPCR検査の陰性証明やワクチン接種歴の電子証明を目的として開発されているものが複数あり、受入れ校と協議の上、有効なものを検討されることもお勧めします。国によっては上記の通り、州によってはレストランの店内飲食等、屋内サービス利用時などにワクチンパスポートが必要となっています。

以上

(文責 :  JCSOSアドバイザリーボード 酒井 悦嗣)