新型コロナのパンデミックが落ち着きつつあり、留学生に対するワクチン接種指導について報告します。
新型コロナに対する行政の感染予防対策が変更され、感染症分類が5類となってもウイルスは存在し、そのリスクとしての感染力・毒性は、今後もそれぞれ変化しながら長期に続くと考えられているのは周知のとおりです。また、同時期のリスクも各国同様ではなく、例としてJohns Hopkins Coronavirus Recourses Centerの情報では、2023年3月6日現在の過去28日間の感染者数に対する死者数の割合を見ると、概要下記のようになります。
国名 |
感染者数 |
死者数 |
死亡率 |
|
国名 |
感染者数 |
死亡者数 |
死亡率 |
日本 |
539,251 |
3,432 |
0.0064 |
UK |
103,033 |
2 |
0.0000 |
|
USA |
1,041,804 |
10,378 |
0.0100 |
韓国 |
297,691 |
424 |
0.0014 |
|
ドイツ |
388,273 |
2,269 |
0.0058 |
台湾 |
325,075 |
1,058 |
0.0033 |
|
フランス |
97,759 |
664 |
0.0068 |
中国 |
不明 |
不明 |
不明 |
(*参考表: 下記に基づくhttps://coronavirus.jhu.edu/map.html )
また、下記の表:Our World in Data/Outbreak info からも各国の流行株が異なり、感染力や毒性等リスクも異なっていることが見えます。
国や地域により感染予防対策の仕方も異なっている中で、2021年の後半より長期の留学が再開されました。この約1年半の間に渡航した学生さんの経過を見ると、全員がワクチン接種を完了しておりましたが、マスク等感染対策を徹底していた日本から、マスクをする人がほとんどいない現地へ渡航した結果、ある程度の割合で感染陽性者が発生し、自己隔離の必要性が発生しました。
緊急対策の現場から見て顕著であったことは、感染陽性の学生の中で重症化して入院し、呼吸管理が必要となる重症患者が皆無であったことです。現場感覚からワクチンの有効性の高さ、感染予防より重症化を防ぐことに高い効果のあることが見て取れました。
長崎大学熱帯医学研究所のmRNAワクチンの新型コロナワクチンの重症化予防の有効性をまとめた研究(※1)では、『入院予防の有効性の評価では、16 歳以上の 727 名 (うち検査陽性者 299 名)が解析対象となった。 年齢中央値は 80 歳であり、71.4%に基礎疾患があった。ファイザー社製 (BNT162b2)またはモデルナ社製 (mRNA-1273)いずれかの新型コロナワクチンの 2 回接種完了 (接種後 14 日以上経過)の入院予防の有効性は 58.2% (95%信頼区間: 2.7~82.0%)、3 回接種完了の有効性は 72.8% (95%信頼区間: 46.6~ 86.2%)、4 回目接種完了の有効性は 84.8% (95%信頼区間: 66.4~93.1%)と推定された。』としています。つまり、ワクチン接種4回完了していることの有効性を確認しています。
(※1)出典:長崎大学https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/news/news3849.html
*参考表下:各国の流行株:出典は東京都健康安全研究センターより
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_virus/worldmutation/
(1)ワクチン接種の指導について
① 世界的に新型コロナウイルスに関する各国内の感染対策規制や水際対策が緩和される中、以前のようなワクチン接種の一律義務化を続けることについては、人により意見の違いが出ると思われます。
但し、感染症に対する行政の扱いが変わってもリスクは継続し、大学や教育機関には学生や生徒等の健康と安全を図る安全配慮義務が、変わらずあります。また、日本と諸外国では、感染拡大防止策の規制緩和の時期が異なり、早くから規制緩和をした国では、ワクチンに加え、不顕性感染をした人の割合も高くなっており、相対的に規制(マスク着用等)を続けた日本では不顕性感染をした人の割合はそこまで高くない、と考えられ、集団免疫の域に達しているかどうかの違いがあることを感染症専門医が指摘しています。別の味方からすれば、世界各国から集まる留学生の新型コロナに対する免疫に違いがあり、その中に日本の学生を派遣することになります。もし一定の感染力と毒性のウイルスがあったとして、ワクチンを打っていない、或いは集団免疫にも達していない環境からの学生を派遣することは、一定の免疫を持つ学生であれば感染或いは重症化を防げても、比較的免疫の低い学生は感染し、或いは重症化する可能性がより高いことになります。
ワクチン接種を強制することはできませんが、大学が学生の健康と安全を守る目的で、医学的理由で接種できない人以外に対し、ワクチン接種を勧めることは安全配慮上適切と考えられますし、大学として留学を許可する際に強く推奨することは学生に対する感染症リスク管理の対策として認められると考えます。
繰り返しになりますが、専門家は、新型コロナは終息したのではなく今後も感染力・毒性の異なる変異株の発生、収束があり、その経過が続くと見ています。いつ、強力な株が出ても学生の健康と安全を可能な限り守れることを考えることが望ましいことと考えます。
現時点でも日本からの留学生の入国に対して所定の制限を設けている国が110前後あり、また、日本への帰国再入国時の、PCR検査陰性証明またはワクチン3回の接種証明が必要な条件は、継続されています。
https://jp.usembassy.gov/ja/us-travel-requirements-ja/
② 検討例:米国に関して
アメリカ入国を希望する場合、ワクチン未接種での搭乗・入国が認められるという例外は極めて限られています(むしろ例外に該当する場合には、海外留学・研修自体を検討し直した方がよいかもしれません)。
COVID-19ワクチン接種の要件 在日米国大使館と領事館(https://jp.usembassy.gov/ja/us-travel-requirements-ja/)
よって、アメリカへの渡航にはワクチン2回接種はアメリカが課す条件となっていますので、ワクチンの少なくとも2回接種を引き続き学生に条件とすることは、現状で特段の問題はないと考えます。(ただし、2回しかワクチン接種していない場合には日本帰国時に陰性証明提示が必要となることは、下記③の場合と同様です。)
行政の感染症に対する扱いが変わってもウイルスは存在し続けています。先のJohns Hopkins Coronavirus Recourses Centerの資料から米国では、過去28日間の新規感染者数に対する死者数(死亡率)が 0.0100であり、日本よりリスクが高い状態にあるといえます。
③ 検討例:その他の国・地域について
その他の国・地域については、それぞれ水際対策が異なる場合があること、今後も各種感染対策の変更の可能性がありうることを考慮し、今後一律にワクチン接種を条件とせずに強く推奨する等に緩和することは、問題があるとはいえないと考えます。
ただ、ワクチンを接種しない場合のデメリットとして、現状では日本帰国の際にはワクチン接種を3回以上済ませていない場合には、帰国前の検査での陰性証明の提示が求められています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html
つまり、ワクチン3回以上接種していれば不要である、時間と費用をかけて陰性証明を取得する必要が生じます。すでにコロナ対策がほぼ撤廃または大幅に緩和されている国・地域が多い中、現地でPCR検査場を探すことが難しいケースがあると思われます。また、信頼できる検査なのかどうかが不明であったり、高額の検査費用を請求されたりする可能性があります。そのあたりのデメリット・リスクを学生・保護者等に伝えておくことは、大学・学校の責任範囲をはっきりさせる意味でも重要になります。
以上
JCSOSアドバイザリーボード 酒井 悦嗣