「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第2次提言)」についての提言書を提出 | JCSOS 海外留学生安全対策協議会|教職員向け

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「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第2次提言)」についての提言書を提出

2024年7月4日に、JAFSA会長 曄道佳明(上智大学学長)、JAFSA事務局長 渡邉伸雄、JCSOS理事長 池野健一、新資本主義研究会大学部会座長 森純一、JATA理事長 蝦名邦晴、副事務局長 千葉信一は内閣官房 内閣審議官 教育未来創造会議担当室長 瀧本寛様、内閣官房 教育未来創造会議担当室 参事官 滝波 泰様をお訪ねしました。
四者の関係者は、昨年4月27日「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第2次提言)」が発出されて以来、様々な角度で討議してまいりました。この度、最初の提言書をまとめ、内閣官房に手交した次第です。「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第2次提言)」は非常に重要な国家プロジェクトであり、私共関係者もその成功に貢献するべく意見交換の場を持ちました。

写真は、左より、蛯名一般社団法人日本旅行業協会理事長、JAFSA会長曄道上智大学学長、瀧本教育未来創造会議担当室長、森新資本主義研究会大学部会座長、池野JCSOS理事長

提出した提言書は、以下の通りです。

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令和6年5月22日

「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ〈J-MIRAI〉(第二次提言)」への提言


特定非営利活動法人 JAFSA(国際教育交流協議会)会長 曄道佳明
特定非営利活動法人 海外留学生安全対策協議会JCSOS理事長 池野健一
新資本主義研究会 大学部会 座長 森純一[1]
一般社団法人日本旅行業協会JATA会長  髙橋広行

                
内閣総理大臣を議長とする教育未来創造会議は、昨年4月に「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ〈J-MIRAI〉(第二次提言)」(以下J-MIRAI)を取りまとめた。令和3年12月より2年間をかけてJ-MIRAIの取りまとめに当たられた委員と関係者の方々の払われた労に感謝申し上げたい。J-MIRAIの掲げる、2033年までに派遣留学生50万人、受け入れ留学生40万人という数字は、現状を考えると大胆な提言のように思われる。新資本主義研究会大学部会メンバーを中心に、JCSOSとJAFSAはこの提言に基づいて、若者の留学を促進し、日本の未来を創造する人材育成に向けての方策を議論してきた。この共同提言は、J-MIRAIを一層具体化する方策を検討し、今後の政策決定のために提言するものである。

提  言

世界経済の変革が激化するなかで、日本経済のサービス化やSociety 5.0におけるデジタルトランスフォーメーション(以下DX)化がますます進むと予想される。インバウンド旅行需要は多くの地域で新たな労働需要を生んでおり、またDX化が新たな地域産業の可能性を広げている。かかる状況下、日本の大学には各地域における人財育成のコアとなって、地域のダイナミックな発展に貢献することが求められている。このためには、日本人学生には若いうちに豊かな国際経験を積ませ、世界を相手に発言・行動できる人財を育てること、また海外から活力ある留学生を獲得することにより、可能となる。
一方、少子高齢化のなかで、日本の大学運営は多くの困難に直面している。少子高齢化は多くの大学で入学定員の減少を意味し、特に私立大学の財務基盤を揺るがしている。とりわけ小規模かつ大都市圏外にある大学ほど、入学者数の維持が難しくなっており、それに伴う補助金カットなどにより、既に存続が危ぶまれる事態となっている。 
しかしながら、厳しい国家財政のなかで、安易な救済策に頼ることは懸命な策とは言えず、大学が求められる機能を果たせるように持続可能な方策を、大学・社会・行政がともに考え、協働することが必要である。
より具体的には、以下のようなアクションを取ることを提案する。

1) 中高生の海外派遣の一層の強化
大学入学以前から海外留学への意欲を高めるため、中高生の海外派遣の一層の強化を図りたい。たとえば東京都港区では、令和6年に区立中学第3学年の全生徒を対象に修学旅行をシンガポールで行い、その費用を支援している。もちろん港区の財政はきわめて潤沢であり、他の自治体にとっては容易ではないことから、海外派遣を可能にする環境整備(海外での学びに関するプログラム実施のための支援、旅券費用のサポートなど)に関する支援をお願いしたい。
港区では中学生の海外修学旅行費用支援から得られる効果として、以下の点[2]を明らかにしている。以下はその抜粋である。「令和4年に区が実施した、区内の就学前児童のいる子育て世帯を対象とした調査では、約93パーセントの保護者が、子どもに海外留学させたいという意向があり、ご家庭において、子どもたちが世界で活躍することを強く願っていることがわかりました。(略)心身の成長過程にあり、感性が磨かれる時期に、子どもたちが海外修学旅行を通じて、異国のまち並みや食事、風習など、その違い一つひとつをそれぞれ肌で感じ、多様性を実感し、そこでしか得られない学びや感動を日本に持ち帰ることで、一人ひとりの人生の選択肢が広がることにつながります。(略)区は、全ての子どもたちに海外経験ができる機会をいち早く創出し、子どもの無限の可能性を引き出す契機となることに期待し、海外修学旅行を実施します。今後も、次世代を担う港区の子どもたちが個性や能力を存分に発揮し、世界へ羽ばたいて行けるために、港区の特性を生かした子ども一人ひとりにとって最高の環境づくりを推進していきます。」中高生の海外派遣の意義を明快に述べています。

2)短期留学から増やすことは現実的な一歩
中長期の海外留学を増やすことは大きな課題であるが、教育未来創造会議の第二次提言が「短期留学」を増やすと述べていることは極めて重要なポイントと考える。我々の経験でも短期留学を経験した学生が、1年間の交換留学に行き、更に大学院での留学に臨むというのは多くの大学でも経験されてきている。自らの道を自ら切り開くことが教育の第一の目標であり、短期留学を経験する学生を増やすことが重要な一歩であり、その支援が、文科省及び国交省がコラボを組み推進することが重要である。
① 効果的な海外留学プログラムの開発に向けた支援
令和6年度の観光庁予算では、海外教育旅行のプログラム開発は、予算措置がされているが、ここでは主として中学高校を対象にしており、大学生等を対象とした海外留学プログラム開発は含まれていない。
J-MIRAIも視野に入れ、国際交流を推進している大学との連携による効果的な海外留学プログラム開発に関して対象を拡大するよう要望したい。
② 海外留学希望者への奨学金支援の拡充
一方で昨今の円安、物価高等で留学費用が高騰していることから、海外留学希望者の背中を押すべく、効率的な海外留学奨学金政策も必要となる。独立行政法人日本学生支援機構(以下JASSO)の発表している、現在の海外留学奨学金制度[3]では、あまりに数が少ない。より広範囲の学生が利用できる、公的制度、例えば政策金融公庫に再び、留学資金融資制度を復活させるような、思い切った政策転換も希望する。

3)寄付支援活動の一層の強化
提言では、海外大学での学位を目指す留学ということが言われているが、今の一流の米国留学では、学費に生活費を加えて年間7から8百万円にもなる大学もあり、この費用を4年間払える家計が日本にどれぐらいあるのかという疑問もある。その点、「トビタテ留学JAPAN」の支援は貴重だが、支援活動の全体像などについての情報開示が十分とは思われない。「トビタテ留学JAPAN」への企業や個人の寄付を促進するためにも、一層の情報開示が必要であり、具体化を求めたい。

4)DX教育のための海外派遣プログラム
Society 5.0のなかでDXは、重要な役割を果たし、その人材育成は喫緊の課題である。プログラミングやビジネスプロセスの理解は当然のことだが、同時に外国語でのコミュニケーション能力が求められる。その背景には、現在のDXが国境を越えたグローバルでバーチャルなネットワークのなかで進められていることによる。そのために必要なことは、DXを志向する学生たちが海外に出て、他国のエンジニアと机を並べての体験を行なうことであり、通常の英会話だけではなく、より専門的な用語を含めての語学の勉強、そしてオープンな世界における情報の発信という能動的な活動を行えるメンタリティの養成である。少なくとも6ヶ月、できれば1年海外に派遣し、DXな雰囲気のなかで研修できるコースに対しての支援を受けさせることが有効であり、このプロジェクト推進の具体的予算措置をぜひともお願いしたい。

5)地方のインバウンド受け皿となる高付加価値旅行を実現するガイド養成
増加するインバウンド旅行者が地方経済の活性化に有効であることは、現在多くの自治体で実感されているところである。また、最近の旅行者ニーズの質的転換に対応するため、アドベンチャーツーリズムなどの高付加価値の旅行サービスを提供できる外国語のできるガイドの育成が急務である。
一方、国が質を保証する全国通訳案内士試験の合格者は571人[4]となっており、現在のインバウンドの入国者数に比しても少ない上に、都市部に集中しているのが現状である[5]。観光立国として観光需要を地方に分散し、各地域で高付加価値の観光サービスを提供できるガイド(通訳案内士資格を有し、高品質なガイドサービスが提供できる者)を国レベルで養成していくため、特に大都市圏以外の大学と連携して養成していくプログラムを構築する必要がある。
① 高付加価値旅行を実現するガイド養成プログラムへの支援
1年間の養成期間の中で、語学レベルを英検2級レベルまで引き上げるとともに、ガイドスキルの習得も含めて研修し、後半では海外研修も含めて実践的な研修を行い、最終的には通訳案内士試験の合格も目指すものとする。その際、プログラムの開発経費、海外も含めた研修、プログラムの評価検証等の費用の支援を行いつつ、継続的に当該プログラムが運営できるまでの間支援を行うことを要望する。
② 高付加価値旅行を実現するガイドを生み出す大学との連携強化
快適で質の高いホスピタリティの提供が必要だが、地方では質の高いガイドの不足が深刻になっている[6]。この問題については、令和6年度観光庁予算では、「通訳ガイド制度の充実・強化」の予算措置が行われているが、ここでは通訳案内士と旅行会社の関係に限定しており、ぜひとも通訳案内士を生み出す大学との連携を要望する。
 
6)留学生獲得の支援
① 海外からの留学生獲得のための大学教育への支援
労働人口減少のなかで、やる気のある留学生の獲得はきわめて大事であり、かつ日本人学生にも大いに刺激となる。しかし、大学で日本語の修得を行いながら、同時に専門科目の修得を4年という限られた時間のなかで行うことは容易ではない。大規模な大学であれば、それぞれに日本語教授の機能を持つことができるが、規模の限られた大学では容易ではない。ドイツなどでは、各都市に移民や難民のためのドイツ語「統合コース」が設けられ、合計700時間の講義で、ドイツ語と合わせて、ドイツの歴史や文化を学ぶことが出来る[7]。しかもその費用はきわめて安価である。日本においても、今後、ますます外国人留学生や高度労働者の獲得にはこのような社会基盤が必要であり、合わせて、大学教育の準備段階での支援を行うことを提案したい。
② 海外からの留学生確保に向けた宿舎確保に向けた支援
留学生獲得のための条件には宿舎の確保が不可欠である。大学寮等を有する大規模大学は
まだしも、中小大学や高校への留学生の拡大のためには現行のホームスティ支援(JASSO支援として184家庭のみ)では不十分で、その拡充をする必要がある。

7)中小大学の活用について
最後に、改めて今後の私立大学の淘汰について指摘したい。金子元久、東京大学名誉教授によれば、「今後小さい大学から学生が入学しなくなったと仮定すれば、実に400校前後大学が学生数ゼロとならなければならないことになる。(略)極端な場合には現在の大学の半数が廃校となることになる。[8]」と指摘されている。このような事態は、これまで地方創生の担い手として期待されてきた、各地域を代表する特色のある、中小大学がなくなるのではないかと危惧する。インバウンド振興を嚆矢とするなら、それを担う機能を提供できるのは地域の大学である。そうした意味で、インバウンド振興、観光地作り、DMOへの人材供給機能と地方中小大学を連携させた総合地域観光政策の策定を提言したい。

[1] 京都大学名誉教授、元京都大学国際交流推進機構長 
[2] 港区ホームページ/海外修学旅行 (city.minato.tokyo.jp)
[3] 海外留学への奨学金一覧
[4] 読売新聞「世界遺産・姫路城でプロの通訳ガイド不足が深刻化…地元NPOが養成講座を開催へ
[5] 日本政府観光局 「2022年度受験者数及び合格者数
[6] 国土交通省
[7] helte, 「選ばれる国になるために ドイツの統合コースから学ぶ多文化共生
[8] 「IDE現代の高等教育」4p  2023年12月号