コロナ後の国際教育を考える – Yale大学のセミナーから考える | JCSOS 海外留学生安全対策協議会|教職員向け

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危機管理コラム

コロナ後の国際教育を考える – Yale大学のセミナーから考える

 我が国でもワクチン接種が本格化してきた。大学でも集団接種が始まり、学生の海外派遣の再開も次第に現実味を帯びてくる可能性が高い。そこでコロナ後の国際教育がどう変わるか、米国の大学の考え方はどうか、大学のリーダーである学長レベルの考え方を確認することには十分な意味があるだろうと考える。

 その一例として、YouTubeが米国とパキスタンの3大学の学長による大変に面白いセミナーを配信しており、今後の日本の大学にとっても参考になると思われたので、以下に筆者なりの理解を記しておくこととしたい。米国の大学がコロナ禍の経験を活かして、大学のミッションである世界への貢献を前向きに捉えていることがよく分かる。コロナワクチンの学生への接種の進め方の議論もあり、国際教育に関わる我々にも大いに参考になる。

 なお、これはあくまで筆者の主観的なメモであり、セミナーの厳密な内容はぜひオリジナルのビデオを見て確認を戴きたい。

Higher Education in a Post-COVID World: A Panel Discussion with University Presidents Apr 16, 2021. (オリジナルビデオはこちら)

出席者:
The Yale Institute for Global Health (YIGH)
Peter Salovey, President, Yale University
Elizabeth Bradley, President, Vassar College
Firoz Rasul, President, Aga Khan University
Saad Omer, Director, Yale Institute for Global Health.

出席者は上のリストにもあるとおり、Yale大学学長、Vassar大学の学長、そしてパキスタンのAga Khan University (AKU)学長であり、司会者はYale大学のGlobal Health研究所所長である。

1.コロナ禍が大学運営に突きつけた課題

(1)Yale大学
 Salovey学長によれば、地域社会を含めての大学キャンパスの安全確保と教育・研究のミッションの両立だった。様々な専門分野の研究者と協力し、研究を早期に再開した。特に重要なことは、学生特に Undergraduate の学生にガイドラインを理解し守ってもらうことだった。そこでは学生を信頼することが重要だった。学生を信頼できるということが学長にとっては非常に重要なことだ。

(2)Vassar大学
 Bradely学長は、コロナ禍の問題は、「公平性(equity)」を破壊することだった。学内での弱者(たとえば経済力など)への配慮、「公平性」は自分たちのミッションだった。Vassar大学ではこれまでも85%の学生をオンキャンパスで受け入れてきたが、このミッションを実現するために、キャンパス内で、教職員と学生で作る、Vassar Together Groupという委員会を作り学内での対応に当たった。(注:85%の学生がオンキャンパスで行ったいうことは、アメリカにおける感染を考えれば大変な数字である。ちなみにBradely学長は公衆衛生の専門家である。)

(3)AKU大学
 AKU大学は、自国に加えてアフリカの複数の国でキャンパスを運営しているユニークな大学である。大きな課題は、それぞれの国における毎日のように変わる政府規制などに対応しながらキャンパスの安全を守ることだった。そのためにも、キャンパスの存在するすべての国で政府の諮問委員会に入り、政府と連携してキャンパスを含めての防疫をすることだった。(注:大学長は議論を通じて途上国ではワクチンが入手できないと、途上国の立場から先進国の対応に対して厳しい批判を行っていた。)

2.コロナ禍が今後の大学への影響について

(1)学際・国際協力の重要性
 Salovey学長は、コロナ禍を経験し、我々が世界の一部であることをますます認識することになった。学際と国境を越えた世界的な課題の解決は我々のミッションであり、キャンパスにおいては、キャンパスの構成員が学部や組織を乗り越えてチームワークを活かすことの重要性を強調している。

 またコロナ禍で、国際的なLearning Networkの重要性が述べられていた。Bradely学長は、健康医学に限らず、海外の大学などからリベラルアーツ教育のコース提供を求められているという。これは感染の予防などに医学のみならず、歴史などの幅広い知識が求められている。

  AGURasul学長は、多くの途上国では国内でワクチンが製造できず、またインドがワクチン輸出を停止していることを述べて、途上国においてワクチンが作れることが重要だと述べている。

(2)コロナ後の国際教育・研究
 コロナ後に何が変わるかについて、Salovey学長は、従来の常識から見ればマジックともいえるZOOMを使って世界にどうYale大学を発信していくのか、これまでとは全く違うことになるだろうと話す。またオンラインにより、場所をえらばず、同じようになりうる。キャンパスの重要性は変わらないが、コロナ後の研究教育はこれまでとはまったく異なる物となるが、同時に多くの人々の教育や研究へのアクセシビリティを確保することの重要性が述べられている。

(3)学生のワクチン接種について
 学生がワクチンを打つかについて、Bradely学長は特別の理由がない限り学生はワクチンを打つべきとし、特別な理由としては例えば健康上あるいは宗教上の理由などを挙げ、Salovey学長も同意見であった。ワクチンに対する嫌悪(reluctance to vaccination)の払拭に大学が如何に貢献できることが必要という点で一致した。

(4)SOP (Standard Operating Procedure)についても話合われた。
 今回の経験を踏まえて、次の発生に備えて、科学的な知見に基づいたCovid-19 Playbookを書いておくことが非常に大事だということで両学長の意見は一致した。

(5)学内における Teaching and Learning Center の重要性
 Teaching and Learning Centerはコロナ禍で大事な役割をはたした。特に、Yaleでは、ZOOMでのオンライン講義のティーチングメソッドを早急に作ることで力を発揮した。同時に教員たちの創造性というものも非常に重要だった。例えば演劇をオンラインでどうやって講義するのか。ティーチングセンターは学内の経験を集約するのに非常に重要な場所である。

*今回の危機管理コラムは、JCSOSアドバイザー森純一先生が設立されたKyoto MIEX Consultant (京都ミークス・コンサルタント)の『京都ミークスのブログ』からの転載です。
【出典元】 森純一『京都ミークスのブログ: 米国の大学のコロナ対応と今後の教育・研究についてのパネルディスカッションについてのメモHigher Education in a Post-COVID World: A Panel Discussion with University Presidents2021525. 
記事はこちらから(アクセス日:2021629日)