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留学先で講じるべき、ヘイトクライムに対する3つの対策(米国)

前トランプ大統領の発言に刺激され、アジア系住民に対するヘイトクライムがニューヨーク・カリフォルニアの大都市を中心に増えている中で、2021521日には、米国議会の下院でアジア系・太平洋諸島住民に対するヘイトクライム防止法案が可決されました[i]。この法案では「ヘイトクライムの取締りを強化するために、全米各地の警察当局に必要な訓練を実施することや、司法省に対し各地の警察当局が事件ごとの被害者の人種などについてのデータを収集するための指針を示すこと、さらに、司法省にヘイトクライムを担当する新たなポストを置くこと[ii]」などが盛り込まれています。

ヘイトクライム防止法案が可決され、問題解決に動きだしていますが、アジア系住民が置かれている状況は、すぐに変わるものでもありません。このような状況下で、米国に留学する場合は、米国での差別の歴史を知ると共に、実践的な対策方法を身に着けて渡航するようにしましょう。以下、3つの対策の具体案を示しますので、参考にしながら、それぞれの経験や知識、そして渡航先の環境に合わせた、対策を講じることをお勧めいたします。

1.留学生の治安状況や生活環境を把握する
危機管理や安全対策のはじまりは、「情報収集」です。出発前だけでなく、到着後も町の治安状況や生活環境について、積極的に情報を入手しましょう。留学先に到着したら、まず町全体が俯瞰できる折り畳み地図を手に入れ、滞在先、学校、ショッピングセンターなど、日常生活で利用する場所の位置を確認しましょう。次に地図アプリで滞在先から学校まで、そして学校からショッピングセンターなどの行き方や所要時間を調べます。それらの情報を基に、実際に町を散策しながら、どこが安全で、危険なのか調べてみましょう。自分の肌で直に感じることが大事です。また犯罪に巻き込まれたことを想定し、警察署や警官が立ち寄る場所、コンビニエンスストアやドラッグストアなど、避難できる場所を確認して置くことも大切です。そして入手した情報は、必ず記録に残しておきましょう。

2.新たな知人・友人と良好な関係を築く
海外でトラブルに遭遇した場合、自分だけの力で解決できないことがたくさんあるはずです。留学受入機関が主催するオリエンテーションには必ず参加し、国際交流アドバイザーや先輩の留学生、そして同じ時期に留学生活を始める学生と親しくなるように努めましょう。留学先のアドバイザーや先輩留学生のアドバイスには、有益な情報がたくさんあります。積極的にコミュニケーションを取り、有益な情報を入手するとともに、そして万が一の時に備え、援助が得られるように良好な関係を築いておきましょう。

3.リスクを減らす
ヘイトクライムの多くは商業活動時(32.2%)や公共の場所(道路や公園/29.4%)で発生しており、差別的な言葉をののしられるなどの口頭での嫌がらせ(65.2%)や意図的に避けられる(18.1%)等の行為が大部分を占めています[iii]。事前情報を基に、万全の対策を講じていたとしても、ヘイトクライムに遭遇するリスクを完全に取り除くことはできません。先日、米国在住の日本人の友人にヘイトクライムについて問い合わせをしたところ、テキサス州・ヒューストン在住の友人は「2021310日付で、マスク着用義務を解除と商業活動を全面的に再開[iv]後、数日間は、政策変更の影響があるだろうと予想し、必要なとき以外、外出は控えるようにしていた」(テキサス州ヒューストン)、大学町に暮らしている友人は「少し離れたリベラルな住民が通うスーパーで買い物をするようにした」(オハイオ州)と話をしており、どちらもトラブルに巻き込まれるリスクを減らす努力をしていました。我々においても、このような状況下で米国に滞在する場合、必要以上の外出は控え、用事が済んだら早めに滞在先に戻るなどリスクを減らす努力が必要です。

ヘイトクライム防止法案が可決される一方、アメリカ南部の大学‐エモリ―大学(ジョージア州)・ヴァンダービルト大学(テネシー州)‐では、アジア系アメリカ人の学生らを中心にアジア系アメリカ人コースの開講を大学側へ要望する[v]など、現状を改善しようとする動きもあります。今後、早い内に、コロナウイルスやアジア系住民に対するヘイトクライムの状況が落ち着き、安心して渡米できる日がくることを願っています。

(文責:JCSOS事務局 上野明彦)


[i] Darlene Superville“Biden signs bill to counter spike in anti-Asian hate crime,Washington Post May21,2021 →記事はこちら

[ii] NHK NEWS WEB『米議会下院 アジア系住民に対するヘイトクライム防止法案可決』2021519日→記事はこちら 

[iii] Russell Jeung Ph.D., Aggie J. Yellow Horse, Ph.D., Charlene Cayanan “STOP AAPI HATE NATIONAL REPORT 3/19/20 – 3/31/21,”the AAPI Hate Report Center May 6th,2021→記事はこちら

[iv] Office of the Texas Governor Greg Abbott ”Governor Abbott Lifts Mask Mandate, Opens Texas 100 Percent” March 2, 2021→記事はこちら

[v] Francie Diep,“What Asian American Student Activists Want,” APRIL 6, 2021, →記事はこちら